すをばふのおもちゃ箱

2017年1月24日火曜日

世界最強の公認会計士

今日は傷物語の冷血篇とザ・コンサルタントを見てきた。





















鉄血、熱血と来て冷血篇もすごかった。作画がいい。アクションの躍動感もそうだが、服のシワも髪のなびきも力強い表情も大満足だった。原画マンも「おっ」と思うメンツだったが、作画パートとか当てられるような人種ではないので割愛。坂本真綾が好きだからそれだけでいい。


本題は「ザ・コンサルタント」だ。
映画館で見た予告編とチラシ以上の知識は一切入れずに見に行った。
ベン・アフレック演じる公認会計士が、夜の顔は暗殺者ということを一番の売りにしている印象を受けていたので、舐殺系(舐めてた相手が殺人マシーンでした系)という前提で見た。夜の時間帯だったので映画館のマナーも知らないゴミが多かったが、愚痴っても仕方ないので映画の話をしよう。


ぱっとあらすじ。

公認会計士クリスチャン・ウルフ(ベンアフ)
細々と会計コンサルタントを営み、多くはないがそこそこの年収で生活していた。しかし彼には、年収10億円は稼ぎ、裏世界の金融を取り仕切る裏の顔があった。












ヒロインはアナ・ケンドリック(超かわいい)が演じるデイナ
サイバネティック技術でロボットの義手や義足を作る「リビング・ロボティクス」で財務を担当。会社の不正を見つけて大変なことに。


















ウルフの正体を探る捜査官キング(J.K.シモンズ)
セッションのフレッチャーの記憶が新しいが、今回は割と優しめ。(顔は怖い)











映画の悪役ブラクストン(ジョン・バーンサル)
登場人物のほとんどがスーツとフォーマルな服の中、髪型と服装と性格が軽薄で目立つ。なんつーかたまげた本当。
















この先はネタバレアリ。














ブログのタイトルはもちろん、セガールの沈黙の断崖のCM「世界最強の環境保護局調査員セガール!」のパクリだ。そういう感じの映画だと思ってたし、まあ7、8割くらいそうだった気がする。「昼は公認会計士、夜は暗殺者」という宣伝文句から、毎晩のように悪を裁く「イコライザー」おじさんのお友達みたいに構えていたが、実際は「元軍人の公認会計士がたまに許せないことがあると昔のスキルを発揮して邪魔者をみんな潰す」おじさんだった。故にしょっちゅうアクションシーンがあるわけではない。


アクションについて

今回のベンアフのアクションはかなり良かった。キアヌ・リーブスが大復活を遂げた舐殺系アクション「ジョン・ウィック」でも使われていた”シラット”をベンアフも習得してきた。かなり訓練を積んだのがわかるキレの良さ。数学に強い主人公らしい、計算された効率的な格闘が見事に表現されていた。銃の撃ち方も似ていて、無駄なく胴体に数発、止めに頭、確認に頭と撃ち込んでいく。訓練された只者でない筋肉質の男が頭を使って戦ってくるのは実に圧倒的で見ごたえがあった。

ただし戦闘シーンは実はそんなにない。舐殺系と思って面食らったのはそこである。これはれっきとしたスリラーであり、アクションシーンに比重は置かれていなかった。主人公たちの人間模様をじっくり描くことに注力している。

モハメド・アリ

冒頭、施設でクリスがパズルで遊ぶシーンがある。彼は厖大なパズルのピースを高速で埋めていく。それも裏表逆で絵柄を見ずに。彼の天才っぷりを示すシーンなのだが、注目したいのはこのパズルの絵柄がモハメド・アリであること。
史上最速のヘビー級ボクサーモハメド・アリ。彼は長年の試合の影響で引退後パーキンソン病を言い渡された。彼が亡くなったのは、それから約30年後の2016年。病気でも強く生きたアリを使用した意図はこの辺にありそう。(施設の壁にこのパズルが飾られているシーンがある)

コレクション

家のキャンピングトレーラーには世界中のお金や大量の武器、貴重なコレクションの数々が詰め込まれている。やはりマーク・ハミルのサインプレート付きライトセーバーが気になった。ポロックの絵は、ヒロインに譲渡されるなど役割があった。自分はポロックの絵が障害者として生きる主人公を重ねて「世間から見たら異質に見えるかもしれないが、秘めた魅力があるしきちんと評価されるポテンシャルもある」ものとして扱われているように思えた。ポロックの魅力がわかるヒロインにクリスチャンが惹かれたのも、異質さを許容してくれる彼女を感じたからだろうか。

最後のどんでん返し

いろいろあって最終決戦。黒幕の社長とブラクストン、彼の部下の傭兵10人程が立てこもる邸宅にベンアフが乗り込む。一人、また一人となぎ倒していくベンアフ。食い入るように監視カメラを見つめるブラクストンはあることに気づいて走り出す。弱ったベンアフにとどめを刺そうとする部下をなんと自分で撃ち殺す。そしてまさかの兄弟の再会。「回想でしか弟でてこないけどまさか殺されたんちゃうやろな」と思ってたら殺されたのは裏社会の大物じいさん。弟どうしたと訝しんでいたらお前かーーーーーーーーい。しかも特に諍いなし!強いて言えば自分たちを捨てた母親の葬儀に勝手に行って騒ぎを起こして、親父が死ぬし自分は逮捕されてそれっきり音信不通になった事で殴り合いの喧嘩しただけ。「お前を危険に巻き込みたくなかった」「いや俺の仕事も結構危険な方なんだけど・・・」って突然のコントみたいな会話に笑って良いのかすごく迷ってしまった。やばい仕事してるのはお互い様なので危ない目にあわされた事とかはどうでもいいのかしら、「来週とりあえず飯行こ」で別れて終わるあの感じ。なんかこう。すごい。

電話の女

機械音声でベンアフに仕事の依頼を、ハッキングなどで手にいれた情報を捜査官にお知らせ、なんでもしてくれる不思議な電話のあの人。彼女の正体も最後に明らかになる。その正体は、最初の施設のシーンでパズルを拾ってくれたジャスティン。他者との会話ができない重度の障害を持つ彼女は、施設の社長の娘。そしてハッキングなど機械操作に才能を発揮する天才だったのだ。あの機械音は言葉を話す代わりに使うチャットマシーンだ。

主人公の設定について

日本の宣伝しか見ていなかったので知らなかったのだが、本作の主人公は「高機能自閉症」である。映画の冒頭もいきなり病院のシーンから始まる。(この子役が微妙にベンアフに似てる)言葉の話せない重度の症状を持つジャスティンと、パズルの最後のピースが見つからなくてパニックを起こすクリスが描かれる。
海外の予告には施設のシーンなど、主人公が障害者である事を示すシーンが盛り込まれているが、日本版にはそれがなく、「なぜ主人公は強いのか?」「なぜ主人公は明晰な頭脳をもっているのか?」というキャッチコピーで広告を打っていた。舐めてた相手が殺人マシーンでした映画だと思って見に行ったら違ったというわけである。
私の親戚にも自閉症の子がいる。本作の主人公のように、物の位置をきっちりさせないと気が済まず、1日にやったことをメモにびっしり書いてる几帳面な性格だ。流暢ではないが意思疎通もできる。なので、自分はそれなりに自閉症についての知識もあるのでこの映画も飲み込めた。だが、そうでない人にはどう映っただろうか。

映画が描きたかったもの

この映画のラストをざっくりまとめると、「裏社会で暗躍する凄腕集団の正体は、重度の障害を持つ人々だった」というものだ。
この手の映画の主人公の有能っぷりの理由付けに障害が用いられることは珍しい。重度の障害を持つ代わりに、常人離れした才能がある主人公たち。数学者やポロックの絵、モハメド・アリなど精神疾患に関係する描写が多い。なので宣伝から意図的にその要素を排除しているのには少し引っかかる。サプライズとして面白かったといえば面白かったが、それを知ってたらもうちょい話が飲み込みやすかった気もする。

最後に

取り扱ったテーマやアクションのクオリティなど、この映画を好きになる要素はたくさんあった。しかし、一つ気になるのは盛りだくさんすぎる脚本だ。キャラの背景を見せるあまり、説明的シーンが多すぎる気がする。キングの過去もうまく編集すれば2回で済んだ気がする。含みを持たせる演出も好きだが、少々理解できないシーンが多く、自分の勉強不足を感じた。細かい設定が多すぎてどれがどのキャラの設定だったか混乱する箇所が多々。時系列も結構ランダムで少しまとまりに欠ける。もう少しシーンの順序とか変えたらわかりやすかった気がする。

説明や設定の盛りすぎは見ていて辛いが、逆に言えば現実感のあるリアルな人物ドラマが描けたとも言える。舐殺系と違うと言いつつ、ついついジョン・ウィックやイコライザーと比べてしまうのだが、彼らが浮世離れした超人だとすると、クリスチャンは地に足のついた現実感のある主人公だ。それはやはりドラマ部分に力を入れたおかげであり、アクション映画というよりスリラーやサスペンス

全部繋がった時は気持ち良かった。ずっとシリアスだった本編なのに、最後に突然の兄弟の再会。そして「私が金を持てば社会が豊かになるのがわからんか!?」とブチ切れるロボティクス社の社長に「わかる」と言って握手でもするみたいに銃弾を撃ち込むクリス。唖然とする弟。劇場が笑いに包まれていた。最後に判明するクリスの助手の女性。こういうのがやりたくて伏線やら含みのある演出を積み重ねてきたんだろうなぁとは思う。ド派手なスカッとアクション系を期待すると肩透かしかもしれないが、好きな人は好きな作品。面白いけど惜しい。

ただ、「うまく伝わらない」が脚本の問題でなく、自閉症の主人公の言わんとすることを汲み取れない自分のせいだとしたら・・・
まだまだ修行が足りないですね。はい。




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