すをばふのおもちゃ箱

2017年9月11日月曜日

ダンケルクとは IMAXとは

超久々の更新。

富士総合火力演習に行った話とかガーディアンズ・インフェルノのポスターが付いた海外版の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー vol.2 4K版ブルーレイ」を買った話とか3ヶ月で20本くらいブルーレイを買った話などネタがないことはなかったのに「ブログにするほどでもないな〜」とツイートだけして終了。

なぜ久しぶりにブログに手を出したかというと、「ダンケルク」という映画を見たから。
この映画を観るにあたり、最近よく聞く「IMAX」という上映方式について色々勉強した結果、それを備忘録しておく場所が欲しくなったからだ。
専門用語とか詳しいことまでは自信がないけど「なんとなくIMAXを知った気になれる」話をしたい。

あとダンケルクの話も。(好きな演出語りマンなので微妙にネタバレるかも)



目次

まず「ダンケルク」とは
映画の時系列
登場人物
演出で気になったところ
IMAXについて
音について
最後に




簡単な目次の作り方覚えた。
わーい。





まず「ダンケルク」とは


映画の話からするか歴史の話からするか。
そんなに歴史に詳しいわけでもないので映画の話に歴史をチョチョっと盛り込むことにしよう。
顔面から知的さが漂ってくる

「ダンケルク」という映画は、かの有名なクリストファー・ノーラン監督の最新作。
ドイツ軍の猛攻でダンケルクという街に追い込まれた連合軍の兵士が海を渡ってイギリスに逃げようとする話の映画。
これまで「インターステラー」のような濃厚な科学考証と人間ドラマの映画や、「ダークナイトシリーズ」のようなコミック実写化映画を撮った監督が初の史実戦争映画を撮ると聞いては興味をそそられずにはいられない。

その見た目通り知的な映画を撮る













クリストファー・ノーランについては
・めっちゃ頭がいい
・いつどこでもスーツを着てる
・インターネットが嫌い
・アナログ大好き
くらいの印象をほんわかと持っている。

インターネット嫌いは筋金入りで「ネットでちょちょっとつまみ喰いした知識はよくない!本読め本!」という感じ。
(スマホばっか見てねえで上見て歩け!宇宙ワクワクするだろ!いつから人間は内側にこもるようになったんだ!外でろ!というメッセージをインターステラーからは受信した)

アナログ大好き伝説にはネタが尽きない。
・ビル一棟作って爆破したとか(ダークナイト)
・巨大な輸送用の飛行機墜落させたとか(ダークナイトライジング)
・ジェット機の先っちょにIMAXカメラ(1台で5000万円くらいする世界一高いカメラ)を付けて飛ばしたとか(インターステラー)

「ダンケルク」においても
・ダンケルクっぽい場所で撮影したくて色々探した結果ダンケルクで撮影
・軍から駆逐艦をレンタル
・当時のダンケルクで実際に兵士を輸送した民間船舶もレンタル
・第二次世界大戦時の戦闘機を飛ばすためレンタル
などがある。


監督の話はそこそこにして。
「ダンケルク」という映画そのものについて。

映画のあらすじをいうと
第二次世界大戦、戦車や戦闘機を主軸とした機甲部隊の機動力を生かした電撃戦を展開するドイツ軍の猛攻により西部戦線は崩壊。フランス最北端の街ダンケルクに追い込まれたイギリス、フランスの連合軍はドーバー海峡を背に身動きを取れない状態だった。イギリス首相チャーチルは追い詰められた連合軍兵士40万人の救出を命令。かくして、イギリス中の船を軍民問わず動員した史上最大の撤退戦「ダイナモ作戦」が決行される。
という感じ。

ちなみに上のあらすじは映画で一切説明されない。
言ってみれば通常三幕構成の第一幕、第二幕を省き、三幕目である撤退戦そのものだけで構成された映画なのでこのくらいの予習はあってもいいと思う。


ダンケルクという街の位置。
ここを拡大したのが以下の地図。
ドイツ軍は空からこの地図をばらまき
連合軍に降伏を促していた。
ダイナモ作戦とは、この背にした海を
渡り、イギリスへ撤退する作戦の名称。
空からはドイツ軍爆撃機メッサーシュ
ミット。海からはU-ボートの魚雷に狙われた状態でこの40kmの海を逃げようというのだ。

我々は包囲している!降参しろ!



結論から言うと奇跡的に30万人以上の兵士の撤退に成功する。
映画には出てこないが、このダイナモ作戦を支援するための陽動部隊、航空支援にあたり撃墜された500機近い戦闘機、約3万人の兵士が捕虜になるなどの犠牲もあったが、当初の想定の10倍近い数を生還させた事が、後のノルマンディー上陸作戦に繋がったとされている。
イギリスの老人たちはこの奇跡の大撤退戦から「ダンケルクスピリット」と呼ばれる、団結して逆境を乗り越えようという気持ちを表した言葉を今でも大切にしているという。


映画の時系列

この映画は「ダンケルクの大撤退」における

・陸で救助を待つ兵士の一週間
・イギリスから救助のため船を出す愛国心に熱い老人の一日
・ダイナモ作戦を支援するため出撃した空軍パイロットの一時間

この三つの時間をミックスした特殊な編集をしている。
なので兵士が夜を過ごしたシーンの後に突然昼間の老人の船や戦闘中のパイロットなどのシーンになる。
しかし不思議とごっちゃにならないので安心してほしい。(インセプションは何回か見直したけど)

登場人物

「ダンケルク」という映画において、登場人物という項目はあまり意味をなさない。
この映画はにたくさんのありふれた兵士たちの中に観客を放り込むというコンセプトがあり、主演俳優は無名な若手ばかりで俳優を見ても誰が死にそうという予測がつかない。
まさに戦場で死を目前にした新兵の隣にいる緊張感を味わえる。
とはいえ一応最低限の主人公は設定されているのでそこを紹介。











トミー:陸の主人公。と言っても彼は救助を待つたくさんの兵士の一人に過ぎない。主人公でありモブ。演じたのはフィン・ホワイトヘッドという無名の舞台俳優。バイトしながら演劇をやってるレベルの若手。











アレックス:陸で救助を待つ兵士。途中からトミーと行動することになる。演じたのは演技初体験、イギリスの人気バンドであるワン・ダイレクションのメンバー、ハリー・スタイルズ。演技初体験ながらノーラン映画の演技派俳優たちに負けない鬼気迫る生存本能むき出しの兵士を演じた。(本物主義のノーランに水に沈められたら嫌でもそういう演技にになる気がする)











ボルトン中佐:ダンケルクの兵士撤退を指揮する上官。演じたケネス・ブラナーは王立演劇学校仕込みの演技力(首席卒業)で、ローレンス・オリヴィエという伝説の俳優の再来とも言われる名優。そしてマーベル映画「マイティ・ソー」の監督。










ドーソン:海の主人公。イギリス海軍が船を徴用する中、熱い思いを胸に自分の手で船を操舵しダンケルクの兵士救出に向かう老人。演じたのはブリッジ・オブ・スパイでアカデミー賞助演男優賞を受賞した名脇役マーク・ライランス。ノーラン曰く「僕は彼が受賞する前からオファー出してたからね!」










謎のイギリス軍兵士:ドーソンがダンケルクへの道中で拾う兵士。船の残骸の上で孤立してるシーンの絶望感がすごい。演じたキリアン・マーフィーはダークナイトシリーズのスケアクロウやインセプションなどノーラン作品の常連。










フィリア:空の主人公。ダンケルクに取り残された兵士を支援するため出撃したイギリス空軍のパイロット。演じたのはトム・ハーディ。マスクで顔の9割が隠れたキャラだが「マッドマックス 怒りのデス・ロード」で披露した目で魅せる高い演技力が見どころ。










コリンズ:フィリアに続く2番機のパイロット。このジャック・ロウデンがイケメンすぎてヤバい。


演出で気になったところ

ノーラン監督は「ダンケルク」を撮る上で影響を与えた映画として以下の11本を挙げている。

・グリード(1924年)
・サンライズ(1927年)
・西部戦線異状なし(1930年)
・海外特派員(1940年)
・恐怖の報酬(1953年)
・アルジェの戦い(1966年)
・ライアンの娘(1970年)
・エイリアン(1979年)
・炎のランナー(1981年)
・スピード(1994年)
・アンストッパブル(2010年)

先述した登場人物から察してもらえるかもしれないが、「ダンケルク」に出演している俳優はトップクラスの演技派で構成されている。
これはノーランが「セリフではなく演技や映像のみで描きたい」ということを念頭に置いていたからだ。
実際「ダンケルク」にはほとんどセリフがなく、圧倒的な映像表現と俳優の表情が全てを物語っている。

「グリード」「サンライズ」はサイレント映画であり、映像のみで物語を伝える「映像言語」という表現の参考にしたのだと思う。(怒りのデス・ロードもこの表現方法に特化した映画)

ヒッチコックの「海外特派員」は最後に飛行機が海に落ちるシーンがあり、そこを参考にしているようだ。

「アルジェの戦い」「炎のランナー」からはドラマの描きかた。

「ライアンの娘」は海の映し方が巧みな映画で、ほとんどが殺風景な空と海の景色で構成される画面を退屈にさせない映像を撮る参考になったようだ。

西部戦線の戦いをもとにした映画なので「西部戦線異状なし」はもちろん参考資料。(戦争で奪われる人間性がグロすぎる映画)

「恐怖の報酬」「エイリアン」、最近の映画では「スピード」「アンストッパブル」が参考資料。どの映画も目には見えない敵(この場合「時間」の事)が迫る緊迫感の表現が巧みな映画。「ダンケルク」にてドイツ軍兵士が徹底的に描かないのは「目に見えない敵」という恐怖と緊迫感をもたせる演出だ。


IMAXについて


最近カメラについて非常に興味を持ち頑張って色々調べてる最中です。
そんな自分の最近の認識で語ってますが、素人の付け焼き刃なので間違ってたら教えてください。



まずはこの画像をご覧いただきたい。


これは、「ダンケルク」のフォーマットごとの違いを比較した画像。
右はデジタル。左はフィルムによるもの。

デジタルとフィルムの違いについてサクッとまとめると


フィルム:昔ながらの「あの」フィルムをくるくる回して撮る手法。フィルムは運搬が大変、そして一度撮ったら消せないなど、かかる手間がものすごい。それでもフィルムで撮りたい監督は多い。ノーラン監督は「デジタルよりもフィルムの方が目に映る映像に近いと思う」と語る。実際、今のデジタルよりフィルムの方が情報量が多い。上映用フィルムにするなどを繰り返すと見慣れた姿に劣化するが、撮影に使ったマスターフィルムはとても綺麗。昔の映画がHDや4Kにできるのはそのためらしい。ノーランとJ・J・エイブラムス、クエンティン・タランティーノは協力して年間いくらのフィルムを買うという契約を結び、倒産する予定だったフィルムメーカーを自分たちのために生かしているほどフィルムオタク。


デジタル:デジカメとかスマホのビデオ機能のイメージ。容量が許す限りいくらでも同じカメラで録画でき、失敗したら削除して撮り直しも出来る。データをPCに移してすぐ編集できるなどいろいろ便利。映画界のレジェンド、クリント・イーストウッド曰く「フィルムはめんどくせえ。今のデジタルってやつはいろいろ便利だ。もうフィルムで撮る気にはなれない」だそう。


70mmフィルムの映像は果てしなく巨大で奥行きがあり、ゴーグルいらずのVRと評する言葉もある。
理系学生としてVRとは〜と自分なりの定義を語りたくなるが、VRと呼びたくなるほどの没入感は本当である。


スタジオ撮影では味わえない美しい自然光や巨大カメラの取り扱いの苦労が伝わるメイキング映像がこちら↓






話をIMAXに戻して。

実はIMAXという企画ははるか昔からあった。
しかし、それを映画でまともに使ったのはノーランが最初だった。
「ダークナイト」「インターステラー」を経て、遂に今作はほぼ全編をIMAXカメラで撮るという大きな挑戦をしている。

画像で分かる通り、IMAXにもいろいろある。
とりあえず大きく分けて3つ。
・70mmフィルムIMAX
・レーザーIMAX
・デジタルIMAX
みんなIMAXと一括りに語るが、画像の通り比較すると実はこの三つ全然違うということを憶えて帰ってください。

70mmフィルムIMAX:一つ100kgを超える巨大フィルムで撮影した映像情報を完全に上映できるIMAX。日本には上映設備が無い。デジタルに換算した解像度については、いろんな意見があってよく分からない。4Kと言う人もいれば8K、12Kと言う人もいる。アスペクト比は1:43:1。

レーザーIMAX:デジタルながら、高画質なカメラの実装によりフィルムIMAXとほぼ同等の画質を再現できるというIMAX。日本では大阪に一つだけあり、2019年に池袋にもできるらいし。これでスターウォーズを見たけど色が全然違ったので本当に普通の画質とは全然違う。大阪のレーザーIMAXは「うちが日本で唯一フルサイズのダンケルク見れます!」と全力で宣伝している。というわけでアスペクト比もフィルムIMAXと同じ。

デジタルIMAX:画像でいうと右列の真ん中。日本で一般的なIMAXで、日本人がIMAXと言ったら大体これ。画質は2Kでアスペクト比は1:9:1。普通の映画より画面は大きいが完全なIMAXではない。

DCP:いわゆる普通のデジタル上映。フルサイズに比べて実に40%もの画面情報が失われている。


こんな比較もある。



左から「普通の映画館」「デジタルIMAX」「フィルムIMAX」の比較。
デジタルとフィルムで一気に差が開くのがわかる。

「ダンケルク」は、巨大なフィルムに広大な風景とポツンとした人、船、飛行機を映し、戦場における「個」を強調した演出が魅力。
窮屈な比率の画面よりなるべく大きな映像の方が良いとされるのはそのため。
全編の75%をIMAXカメラで撮影したらしく、IMAX前提のレイアウトで画面は構成されていると言っていいだろう。



リアル主義のノーランは、一台5000万円近いIMAXカメラをあの手この手で飛行機に乗せて撮影に挑んだ。
フィルムやカメラの大きさを考えるといろいろ無茶な・・・と気が遠くなる。

そんなIMAXカメラをノーランが海に落とした話がある。
引き上げに90分以上もかかったが、回収したフィルムを丁寧に洗浄したところ映像は無事だったという。
「カメラの機械部分は壊れたがフィルムは無事だった。アナログは頑丈なんだ」と自慢げに語るノーランを見たらもう何も言えなかった。

人も船も飛行機もCGは一切使ってない大迫力の「リアル」を見てください。
頑張ったノーランのために。


音について

というわけで「ダンケルク」の宣伝はその圧倒的な映像を推すものが多い。
だが「映像」と同じくらい「音」がもっと注目されて欲しい。
個人的に、鑑賞直後は映像より音の凄さの語りたさの方が大きかった。


「うちはIMAX近所に無いからいいや」と思った人。
頼むから映画館で見てください。
映像と同じくらい、いやそれ以上にこの映画の魅力は音響が占めている。
映画館の、なるべく音響がいいところで見てください。


本作のコンポーザーはノーラン映画の常連で、他にも100本以上の映画で音楽を手掛けた時代の人ハンス・ジマー。
彼とノーランの映画でよく使われる「無限音階」という技法が今回も効果的に駆使されており、巨大な70mmフィルムで撮影された果てなき海と空の映像に相反するような閉塞的な画面に演出されている。
戦闘機のエンジン音や銃撃、爆撃の轟音。
映画の奥で常になり続ける時計の針の音が観客に閉塞感、焦燥感を与え続ける。
すべての音が消え無音になった列車のシーンの開放感。
最後に紙をめくる「ペラ音」の気持ちよさといったら・・・。
あらゆる音響が効果的に組み立てられている完璧な設計だった。

戦闘機のエンジン音はもちろん本物。
どの角度からどう聞こえるか、までこだわっている。
列車の窓から差し込む光は希望に満ち溢れていた。

ノーランは「ダンケルク」について「これは戦争映画でなくサバイバル映画だと思って欲しい」という。
確かにその通りであり、同時に反戦でも戦争や英雄の讃歌でもない絶妙なラインを保っているように感じた。
この映画が讃えているのは団結して逆境に挑む「ダンケルクスピリット」そのものであったと思う。


最後に

これはまさに「映画館で見るべき映画」だと言いたい。
映像配信やレンタルが普及し、映画館に映画を見に行く価値が問われているこの時代に1800円や2000円を払って観に行く絶対の価値がこの映画には詰まってる。
この金額が安く感じられるほどの「体験」があることを保証する。


P.S.
押井守が「史実に対してスピットファイアがカッコよすぎんだよなw」と話していたこと、イギリス兵や船のおっちゃんがどこでも紅茶を飲むシーンをリアル主義のノーランが撮ってるのを見て「あぁ、本当に英国人はどこでもお茶飲むんだ...」って思ったことをここに書き記す・・・


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