すをばふのおもちゃ箱

2017年1月20日金曜日

サムライと西部劇

「ウルヴァリン:SAMURAI」はX-MENシリーズでも異色の映画だ。
4年前、劇場に見に行った時はひたすらぽかんとしていた。
挙げ句の果てに「ラストの空港のシーンのために見てたな」と暴言を吐いた記憶がある

ウルヴァリンシリーズ最終作にして、ヒュー・ジャックマン最後のウルヴァリンである「ローガン」の公開を控えた今年。
吹き替えで見たことがなかったので改めて見直してみることにした。
監督は続編「ローガン」でもメガホンを取ったジェームズ・マンゴールド。
おヒューとは「ニューヨークの恋人」「SAMURAI」「ローガン」と何度も組んでる。






冒頭、原爆投下直前の長崎から映画は始まる。
ハリウッド映画で日本兵が米兵の捕虜を逃したり、原爆でめちゃくちゃになった長崎を悲しそうに見るシーンはあまり覚えがない。
復興が〜人々が立ち直り〜と言った現代の長崎など。
なんかこういうのやりたかったんだなってのが伝わってくる。
やろうとしてるだけで貴重なのでそこは微妙と言ってあげないでおくべきではないか。

現代では「X-MEN: ファイナル ディシジョン」の後、X-MENが解散し全てを失ったウルヴァリンがカナダで隠遁生活をしている設定。
ヒーリングファクターで永遠の命を生きるウルヴァリン。
それは神の孤独に等しい。
あらゆる戦争に参加し、愛するものはみんな死んでしまった。
生きることに疲れたウルヴァリンが不死能力を失い、日本的な生命観に触れて人生の転機を迎える、というのが大筋のテーマらしい。
どうでもいいけどこのキャッチコピーは好き
よくこの映画のレビューで「日本こんなんじゃねえよ〜」「またヘンテコ日本w」とか、ハリウッド映画に登場する日本において定番の感想である。
だが私は、「外国人の目を通して見た日本ってこうなんだ」と思う。
日本なのにどこか異国っぽさがあるのは、やはり感性や目の付け所が違うのだろう。

この映画は色使いが面白い。
冒頭のカナダ、ジーンを殺した罪悪感に苦しむウルヴァリンが暮らす土地だ。
灰色やアースカラーを基盤とした静かな画面か作られている。
それが東京に来ると一転。
都心のネオン街、パチンコ屋にラブホテル、車のテールランプや街の旗に至るまで、あらゆる見慣れたものが画面をカラフルに彩っている。
「ブレードランナー」など、80年代の映画で流行った東洋の神秘主義的を彷彿とさせるのに、実にリアルで見慣れた日本を感じる。
外国人からしたら、ウルヴァリンがファンタジーの異世界を旅しているような2時間の映画だろうか。
それを極力リアルに見せるため、この映画では大規模な日本ロケを敢行した。
特典映像には、おヒュー様が街を行く人たちと握手する羨ましい微笑ましい映像も収められている。
ロケなのでもちろん本当に、あのヒュー・ジャックマンが、秋葉原や高田馬場を疾走している。(ゲリラ撮影もあるので周囲の人の驚きは芝居ではない)
馬場からアキバや上野にワープする件に関しては、まあ文句があるのは日本人くらいだろう。(どんだけ走るんだウルヴァリン)
日系人やセットで撮った日本に比べたら、日本人と日本の土地を使って撮影した日本のリアルさは圧倒的だ。(だって本物なんだもん)
ちなみにラブホのシーンはシドニー撮影だ。
しかし受付のおばちゃんの日本人っぽさは凄まじい。
実はあのおばちゃん、わざわざ日本からシドニーに呼び寄せて演じてもらっているのだ。(リアルに対するこだわりである)

幻想的でありながらリアルな日本を撮影したマンゴールド。
彼の得意分野は西部劇だ。
「3時10分、決断のとき」は傑作である。


新作「ローガン」でも随所に西部劇を感じる。
彼の撮る映画は常に西部劇スピリッツを帯びている

「ローガン」のワンシーン









話が逸れるが、マンゴールドの映画なら「ナイト&デイ」も好きだ。
トム・クルーズとキャメロン・ディアスのスパイコメディ。
詳細は省くが、これがどうしても「ミッション・インポッシブル」(以下MI)の皮肉めいたブラックコメディに見えてしまう。
MIのトムが演じるイーサン・ハントは、イケメンの教科書のような男だ。
一方ナイト&デイのロイ、彼はかなりイかれた危険な男として描かれる。
映画の序盤、ロイと知り合ったばかりのジェーン(キャメロン)の目を通して画面に映るロイはかなりやばい。
常にヘラヘライケメンスマイル、最初は笑顔が素敵な男性として描かれるが、スパイの一端が見えるほど、なんで笑ってんだこいつはとイかれたヤバイ男になっていく。
だがしかし、終盤のロイはただのイケメンになっている。
ジェーンが彼に惚れたあたりから、ロイのイケメンっぷりが完全にイーサンのそれになっているのだ。
この映画は基本的にジェーンの目を通した映像で構成されていると思われる。
ロイの見方が二転三転する様は実に面白かった。
もしかしたら、MIのイーサンもイーサンや周囲の人物の「かっこいいフィルター」を通しているからそう見えるだけで、本当はイかれた男に見える人もいるのかもしれない。

この見方は3回目くらいで気づいた。
それまでは中の中程度の映画だなと思っていた。
サムライもそうだが、マンゴールドの映画はスルメであると思う。
(ニューヨークの恋人は普通に一発で名作に感じた面白さだった)


話が戻って西部劇。
マンゴールドの西部劇っぷりは、何も風景に限った話じゃない。
彼の映画は、主人公の生き様が西部劇なのだ。
日本の東京が舞台のX-MENだって西部劇だ。
ローガンだって西部劇だしナイト&デイも西部劇だ。



うすうすお察しかもしれないが、私は西部劇が大好きである。
イーストウッドは大好きだしマカロニウェスタンが流行した時代から最近の西部劇映画までなんでも見た。
マンゴールドの映画には、そんな西部劇のDNAをあらゆるところで感じる。
彼が考えるに、侍映画と西部劇は通づるものがあるらいし。
確かに浪人(主人をなくした侍)は西部劇のアウトローに親和性がある。
己の死に場所を求めて戦う風来坊のようなところで非常に似通っているのだ。
西部劇と小津安二郎が大好きなマンゴールドは、浪人とアウトローを重ねることで、大好きな西部劇を取り込んだ侍映画を作ったのだ。

「SAMURAI」のウルヴァリンは浪人であり、西部劇によくある自分の過去に苦しむアウトローだ。
そんなアウトローが頼みを受けてヒロインの女性を守り悪党と戦う、プロットがもう西部劇。
「ローガン」は昔はやんちゃしたアウトローが、すっかりおじいちゃんになり孫のような歳の少女と荒野を旅する。
これまたその筋のオタクに響きそうなスタイルで晩年を迎えたアウトローの西部劇を描く。
(あとナイト&デイのバイクチェイスシーンにもどこはかとない馬っぽさを感じる)
シーンのそれっぽさだけでなく、キャラクターの生き様や脚本も西部劇なのだ。


キャラクターの心理描写をえぐり出すことに重きを置く監督は、SAMURAIを他の大作ヒーロー映画と同じにせず、アクションシーンよりドラマシーンに比重を置いた。
喪失感に苛まれるウルヴァリンの苦しみや日本での経験で変化する心、全てを解き放った獣のような姿など、ウルヴァリンの様々な一面を見せてくれる。

音楽に関しても西部劇。
SAMURAIのコンポーザーはマルコ・ベルトラミ。
マンゴールド監督の西部劇映画「3時10分」で音楽を担当した作曲家である。
監督が過去にタッグを組んだ作曲家には、ファイナルディシジョンやアベンジャーズなどヒーロー映画の作曲経験者も何人かいる。
そこをあえて西部劇音楽を作るベルトラミに依頼しているのだ。
他のヒーロー映画とは一味違った音楽を楽しめる。



ファイナルディシジョンの一件でX-MENが解散して愛する者も死んでしまったウルヴァリンを、侍ふ相手を無くした浪人に例えて同じ生き様の西部劇になぞらえたウルヴァリン:SAMURAI。
私は支持します。



また軽く感想とBlu-rayの仕様だけ書こうと思ってたのに長くなってしまった・・・。
Blu-rayは廉価版、正月セールで500円の物を購入した。
しかしそこは20世紀FOX。
SONYピクチャーズみたいに廉価版だから特典映像がないとかディスクデザインがちゃっちいとか、ユニバーサルみたいにメニューが分かりにくいとか特典映像がしょぼいとかそんなことはない。

特典映像はたっぷり1時間ちょい。
日本ロケや日本人キャスティングを含む濃密なメイキングや、もう一つのエンディングなどを楽しむことができる。

500円どころかAmazonで900円というのも破格の安さだ。
ターミネーター4でもそうだが、単体の映画として上等のものが仕上がっているにもかかわらず、シリーズものとして世間の評判がすこぶる悪い映画が格安で手にはいるのは、嬉しいやら悲しいやら複雑である。

廉価版とは思えない立派なディスク
































裏面のあらすじ。
よく読むとマリコがさらわれるという割と終盤の展開まで語られてしまっている。
マックスがV8で家族の復讐を始めるという全体の8割が終わったあたりまでのあらすじが載っちゃってるマッドマックスを思い出す・・・。



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